最終更新日:2004/12/12

明智警視の優雅なる事件簿
〜2.重箱の隅〜

チェスを指される方なら同じように感じると思いますが、本作品には一見しておかしいと感じる部分がかなりあります。 ここでは、そんなおかしな点を一つ一つ挙げていこうと思います。 なお、このページの内容について「おかしくない!」という場合は、私宛までメールをお願いします。


「それだけ将棋より単純ってことだろーに!」(95ページ3コマ目)

金田一少年が明智警視に向かって言ったセリフです。 金田一少年は明智警視に対する反感からこのセリフを言ったと思うのですが、少し検証してみたいと思います。

私の大学時代の専攻から、計算量という観点から見ていきたいと思います。この計算量というのをいい加減に解説すると、 この場合ではチェックメイト(詰み)になるまでに読まれる手の数といった意味です。
細かい話を覚えていないので申し訳無いですが、確かに計算量という点から言うとチェスは将棋より単純であるそうです。 もう少し言うと、チェスと囲碁が同じ計算量で、将棋はそれよりも計算量が多いそうです。 ところがこの計算量というのは、もう少し詳しく言うと「概念的な計算機で計算されるステップ数」といった意味です。 そのため、「チェスのほうが将棋より計算量が少ない」というのはあくまでコンピュータにとって簡単という意味です。

では人間にとってはどうかというと・・・そんなの分かりません(爆)。 というのは、人間はコンピュータと同じように考えているとはとても思えないため、 上記計算量を人間に当てはめるのは不適当だと思うからです。 かといって、人間に当てはめるのに適当な評価基準というものを私は聞いたことがありません。 まぁ、適当な評価基準が考えられるには人間の研究と並列計算の計算がまだまだ必要でしょう。


「――それは対戦相手に問題があったんでしょう!」(95ページ3コマ目)
「最強のチェスプレイヤーが機械に負けるはずありません!」(95ページ4コマ目)

金田一少年の、チェスコンピュータが世界チャンピオンに勝ったからチェスは将棋より簡単だという発言に対する、 明智警視の反論です。ビミョーです。確かに、カスパロフがディープブルーに負けたのはカスパロフが自分らしくさせなかったことが原因であるという意見があります。 ですが、常識的に考える限り人間がコンピュータに勝てなくなる日が来ることは明白です。 GMクラスの実力を持つ明智警視がこのことを分からないとは思えないので、 明智警視の発言は金田一少年に対する子供じみた反論と流すのが良いのでしょう。

〜追記〜
日本時間で2002年10月4日から19日まで、クラムニクとディープ・フリッツ(市販ソフト)の対局が行なわれました。 コンピュータはPentiumV 900MHzを8個(!!)、メモリを1.5GB(!)搭載したCompaqのサーバ機だったそうです。
結果は2勝2敗4分のドロー。非常識マシンを使用していたとはいえ、市販ソフトがここまで来たんだなぁと感じました。


「〜ロス市警アケチ チェックメイトです!!」(127ページ1コマ目)
「昨日のゴールドマン対モノリスの試合の投了図とまったく同じですね!」(127ページ3コマ目)
「いいや必然さ!」(128ページ3コマ目)

準々決勝で明智刑事が勝ったとき、それが前日の試合の投了図と全く同じであり、 そのことを明智刑事の同僚のパトリシアが尋ねると、明智刑事は「必然さ!」と返す。 つまり、明智刑事は意識してゴールドマンの終了図と同じ終了図を作り出したということになります。 そんなことまず出来ません。 これをやるには、まずコマの数をそろえてる必要があります。続いてポーンストラクチャを揃える必要があります。 止めに相手が全く同じ局面で投了してくれる必要があります。 どうです?出来ますか?

この謎を解く鍵は次のひとことにありました。

「でもチェックメイトの形がゴールドマンと同じパターンだったのは〜」(128ページ3コマ目)

同じパターン?全く同じではなかったのでしょうか? 確かにパターンが同じという程度であれば狙って作り出すことは可能と思います。 ということは、著者が「全く同じ」と「パターンが同じ」というのを勘違いしていたのでしょうか。 そう言えば明智刑事の試合結果も「チェックメイト」と叫びつつ「投了図」と言っている辺り、用語の混乱が見られます。 ということでその他も調べてみると、以下のようなものも見つかりました。

「チェックメイト!」(107ページ3コマ目)
「〜ロス市警アケチ チェックメイトです!!」(127ページ1コマ目)
「チェックメイトォォォ〜〜〜!!」(143ページ1コマ目)

このストーリーで出てきた全試合結果がチェックメイトで終わっていると描かれています。 が、世界選手権レベルの大会で全員がメイトになるまで指し続けるとはとても思えません。 これを著者の用語の混同とすると、ここでは「チェックメイト」と「リザイン」を混同しているのではないでしょうか。

「偶然にも私と同じ棋譜で勝つなんて〜」(133ページ3コマ目)

同じ棋譜を作るなんて、双方のプレイヤーがそうしようとしない限り不可能です

どうやら著者がいくつかの用語を混同していると言う推測は正しそうです。 もしくは、知っていながら演出のためわざとそうしているのかですね。 だって、「リザイン!!」なんて叫んだ絵を書いても一般の人には「???」ですからね。


(134ページ7コマ目)

このコマでは、明智刑事がテーブルの上にそばを乗せています。 私の知る限り、これも間違いだと思います。 というのは、テレビ中継されるような大きな大会(この大会は世界選手権だそうです)では、 通常メインテーブルの上には必要なもの(盤、駒、チェスクロック、記録用紙、筆記用具)しか置いてはいけないはずだからです。 なにしろ、現実の大会では「差し入れる食べ物で次の手を指示しているんだ!」なんてクレームをつけたプレイヤーがいた位なのですから。

あと、明智刑事用の記録用紙が見当たりませんが、これはそばの下に隠れていることにしておきましょう(笑)。


「23手先に君のキングは私のポーンに首を刈られるのだからな!」(144ページ4コマ目)

さすが元世界チャンピオン。まだ中盤だと思われる局面で23手詰めを解いたと言っておられます。 それなのに明智刑事の次の一手でゴールドマンの負けが決定しているようですが(笑)。


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